木構造の現状
1995年に阪神淡路大震災が発生し多くの木造住宅が倒壊し、多くの人命が失われた。それまでの日本の木質構造研究とくに在来軸組工法における研究は、鉄骨造や鉄筋コンクリート造等、在来軸組工法以外の分野に比べ遅れをとっていたが、阪神淡路大震災以降、多くの研究が進められた。その間、日本ではいくつかの大きな地震に見舞われ、それらの被害等も調査、研究がなされその結果として、2000年にそれらの研究の成果として、在来軸組工法において建築基準法の大きな改正が行われた。
建物に対する構造的要求性能
1)機能性
変形性能
2階の床板、根太や床梁の断面が小さすぎたり、スパンが大きすぎたりすると、応力上支障はないが、床が大きくたわむと家具が傾いたり、ドアやふすまの建て付けが悪かったり、また、床の傾きを感じ不快な違和感を覚えたりする。部材のたわみは大きくは曲げ変形であるが、木材はせん断弾性係数が小さいために、せん断力によっても変形することがあるし、接合部のずれや、柱脚部等の木材のめり込み変形、あるいは、軟弱地盤、埋め戻しや盛土の上の基礎の沈下量が大きくなり、機能障害を起こす場合もある。
振動障害
大きな道路の横断陸橋を歩いていると、歩行に併せて陸橋が上下に揺れ不快感を感ずることがある。住宅の床根太や床梁も長スパンになるとそのような状態になることがある。
また、最近狭小3階建て住宅でよくあることだが、ちょっとした風、近くの道路の車両や電車の走行、あるいは、階段の上り下りで住宅全体が横揺れし、気持ち悪くなることがある。これらは、固有周期や振幅(振動している時のたわみや横揺れの大きさで変位、速度や加速度)がある一定値以上になると不快感を感じる。前述の変形性能にも若干関連している。
2)損傷防止(広義には機能性に含める場合もある)
建物が自重や外力によって、たとえ破壊しなくても、応力がある一定値を超えると亀裂や残留変形を起こしてしまい建物としての機能を損なう。このため建築の設計では、各種の応力度に対して許容応力度を設定して、建物各部の応力がこれ以下となるようにする。
作用する力が大きくなると、梁が曲げでひび割れを生じたり、折れてしまう。柱の場合は座屈により折れ曲がったり、土台がめり込みにより大きく沈下してしまうことがある。部材や部位により損傷のタイプは色々あるが、有害な損傷はさけなければならない。
損傷防止の必要性は荷重の大きさや頻度に関係している。大地震の場合は損傷は致し方ないが、平常時、風荷重、積雪時や中規模の地震程度では有害な損傷は防止しなければならない。
3)倒壊防止
より大きな力が作用すると、建物は壊れてしまう。過大な鉛直荷重で根太や床梁が曲げ破壊し床が落ちてしまったり、大きな地震力や強風で横に倒れてしまっては大変である。これらが起こらないように、倒壊防止のための設計がなされなければならない。これも荷重の大きさや頻度に関係していて、設計に当たっては最大の荷重を想定し倒壊を防止しなければならない。